いつかはポルシェ

という理由により、話題のポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(以下“PEC”)に行ってきました。

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ポルシェがいっぱい!
ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京(PEC)とは

まずは知らない方のために説明すると、PECはドイツの高級自動車メーカー・ポルシェ(PORSCHE)が2021年10月にオープンさせた試乗施設で、911、カイエン、タイカンなどの最新ポルシェ車を借りて敷地内のサーキットを走ることができるという、とても画期的な施設です。プロのインストラクターに指導してもらいながら、(公道ではまず試せる機会のない)ポルシェの並外れた走行性能を体験することができます。

むろん、体験版とはいえ高級車は高級車なので、お値段は一回4万円から10万円(車種により)と、何度も気軽に通える額とは言えません。しかし「いつかはポルシェ」と思う人にとっては大変魅力的なプランなのではないでしょうか。公式サイトのリンクを貼っておきます。
https://porsche-experiencecenter-tokyo.jp

いざ木更津

PECの所在地は、“東京”の名の付くテーマパークの例に漏れず、東京都ではなく千葉県にあります。東京湾アクアラインを渡った木更津市の木更津金田ICから、15分くらい走った山の中です。

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木更津市街地からは離れている

電車でのアクセスは無理ですが、距離的には都心方面からも遊びに行きやすい位置だと思います。知らんけど。なお筆者は遠方在住かつ早朝出発が面倒だったので、ICのそばで前泊して臨みました。

秘密基地あらわる!

木更津金田ICから側道を圏央道方面へ向かい、山の中に点々と畑が広がる長閑な道を行くと突如、道路横の斜面の上に大きな真新しい建物が現れます。まもなく右手にエントランスの看板があり、入って登って行くと警備員が迎えてくれました。予約したことを伝え、駐車場に車を停めます。当たり前ですがポルシェあるいは他の高級車で来ている方が大半でした。事情によりレンタカー、それもトヨタ・プロボックスで行ったので、警備員も私のことを工事業者かと思い一瞬困惑したに違いありません。

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フェラーリと並んだ黒プロボックス。車高高えなぁ

受付を済ませ、試乗の時間まで建物内をぶらぶらします。一階のロビーにはレースカーが数台展示されていました。(知識がないので解説はパス)

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1960年代的な流線形のレースカー

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ここが東京都ではないことをさりげなく主張している・・・

二階にはラウンジ、カフェとシミュレーターコーナーがありました。車に乗れるのは本人だけなので、連れの方が待ってる間にコースを眺めて寛げるよう配慮されています。満員になるほど人が入ることは無さそうな場所ですが、逆にそれほどゆとりをもった作りにすることが高級感というものなのでしょうね。

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誰もいないが暑いくらいに暖房が効いていた

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最終カーブとオフロードエリアを見下ろす
911に乗る

今回予約したのは911カレラ。ターボとかAWDではないいわゆる素の911です。買うならオーソドックスにこれ!なので。そしてオーソドックス好みの客の意図を汲んでか、色も「ポルシェと言ったらこれ!」のシルバーで、テンションが上がってきます。当然乗るのは初めてです。モーターショーで外から眺めることはいくらでもできるけど、運転席に簡単にはたどり着けない、憧れの車とはそういうものです。

余談ですが、911の読み方は何が正解なんでしょうか。「きゅう・いち・いち」なのか「きゅうひゃくじゅういち」なのか「ノインエルフ」なのか。

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このカエルっぽさが、きゃわわなのです

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後姿は意外と現代的

本日のインストラクターさんが、鞄とコートをトランクにしまうよう勧めてくれます。トランク(ボンネット)を開けて・・・。リアエンジンであることを確認する儀式のようでもあります。

それを済ませるといよいよ乗り込み、最初はドライブポジションの説明から。シートの位置は「窮屈かな」くらい前で良くて、ハンドルの12時方向に両手首を置いて、手首を下に曲げられるくらい、とのことです。いつものように「私は身長があるので」と適当に一番後ろ、一番下付近に調整して、だるくなってくると6時方向でハンドルを持ったりするのは、明らかに後ろすぎたんですね。そこらへん、教習所でもっとしっかり教えてほしかったと思いました。(どうでも良い余談)

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伝統の5連メーター

内装は、過剰な装飾は無いけどクリーンで質実剛健という感じです。物理メーターと画面を組み合わせた5連メーターってどうなのかと思ってましたが、昼光下でも違和感無いですね。ちょっと個性的なオートマセレクター。右ハンドルでもウインカーは左手という例のトラップ。エンジンを掛けたらもっと暴力的な音がするのかと思ったら、案外静かで乗用車的でした。車高の低さもそんなに違和感は感じず。構内の誘導路を30km/hで、しずしずとコースに向かっていきます。

コース・イン

残念ながらコース内での撮影は禁止(そりゃ運転中に撮影するわけにもいかないし)なので、本題の試乗の部分は文字だけで淡々と書いていきます。コースは5つあり、うち1つがカイエン&マカン専用のオフロードなので、実質4つとなっています。これらを90分の制限時間の間、好きなだけ楽しむことができます。なお、各コースでインストラクターさんが最初にお手本を見せてくれるのですが、交代で私がシートに座るたびシートベルトを持っていてくれて、とても丁寧な印象を受けました。

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コースは(オフロード含め)5つ
1.ドリフトサークル

「最初に行けば混まないはず」とのインストラクターさんの提案により、最初はドリフトサークルに。名前の通り車を滑らせながらグルグルとドリフト走行ができるエリアで、20メートルくらいのただの円形の路面ですが、表面が磨かれた上に水が撒かれているので滑りやすくなっています。そのはずなのですが、初めての車でビビってアクセルを踏み込めず、なかなか滑りません。そして速度が出てから滑り始めるので、派手にスピン。少しずつ要領が掴めてくるものの、急操作のしすぎで疲れるのと車酔いするのとが先かもしれないと思いました。上手い人だと回り続けることができるのでしょう。90分間でこればっかりやる人も多いそうです。最後に横滑り防止機能をオフにして違いを体験させてもらったりします。横滑り防止って当たり前の装備になって目立たないけど、たぶん知らないうちに何度も救ってくれてるんでしょうね。

2.急制動&スラローム

ドリフトサークルの隣がキックプレート。これは広い長方形のエリアで、行きは急発進&急ブレーキ、Uターンして帰りはスラロームというコースです。スーパーカーの本気を試せるところですが、ビビッてアクセルを(略) どのくらいのスピードが出たのかメーターを見る余裕すらなかったです。。ひとまず体験したことのない加速と減速でした。なお、ただのアクセルベタ踏みではスリップしながら発進するのですが、この車には、制御によりスリップせず本気の加速ができるモードもあります。ONにすると、ついでに抑えていたエンジン音&排気音もイメージ通りの勇ましい爆音になり、鬼のように加速していきます。曰く「普通のユーザーは最後まで一度も使うことが無い機能」「ポルシェの遊び心」だそうですが。使う場所がない、隠し機能があること自体に価値がある隠し機能!

帰りのスラロームは、純粋にハンドリング練習という感じです。このスピードでジグザグ運転しようなんて思わないでしょ、と言っちゃうところですが、なるほど先読みしてきれいなライン取りをするほどスムーズに走れるのですね。練習しがいがあると思いました。

3.低μ路

ローフリクションハンドリングトラックと書かれているのが、低摩擦係数のコース。インストラクターさんが「ていみゅーろ」と言っていた気がするのでこの小見出しで。ドリフトサークルと同様に磨いたコンクリートの、今度は小さな周回路です。イメージとしては凍結路面で、横滑り時の態勢立て直しの練習ができるものになっています。コースアウトしても大丈夫とのことですが、「車の検査のため一度ピットに戻らなくてはならない」って、それ大丈夫とは言わないですよね?? なお筆者は凍結路面で前科があるので、これもビビッて(略)とりあえず「急な操作すると滑る路面だ」ということを確認する程度で撤退しました。コースアウトしても草地に落ちず路面の色が変わるだけなら、もっと試せるのに。

4.外周コース

さてお待ちかねのサーキットデビューです。なおPECの外周コースは、タイムを競うものではなくあくまでも性能体感と運転技術向上が目的だとして、制限速度が100km/h、追い越しも禁止です。無茶な走りはできないし、しなくて良いということです。

最初の一周はコースの説明も兼ねて左端を静かに回ります。前半は大小の低速カーブが続き、1.5車線くらいの道幅とコース外の林のおかげも相まって、どこにでもある田舎の1.5車線道路を走ってる感覚になります。その後には実在の競技コースの有名なカーブが再現された箇所があり、一つがニュルブルクリンク北コースにあるヘアピンカーブ・カルーセル(の左右反転版?)、もう一つがラグナセカのS字下り坂・コークスクリュー(こっちも左右反転版?)です。前者はあんなにバンクして車が走るのが面白く、後者はジェットコースターじみた恐ろしい下りで、どちらもスムーズに抜けられたら最高に気持ちよさそうな箇所です。終盤はストレートからの高速カーブを、心地よい横加速度を感じながら駆け抜けていきます。

二周目からはコース幅を目いっぱい使って走行。最初は急ハンドルや変なブレーキをしがちだったものの、「カーブの先のほうを見て!」と言われてその通り先の先に意識を向けようと努力すると、本当に無駄な動きが減ってきます。これは面白い。速く走れるばかりでなく、同乗者の不快感・車酔いも抑えられるそうです。そんなの考えたことも無かった! たいていは前車がいたり、やっぱり人の飛び出しが怖かったりして、手前を見がちになると思うんですよね。しばらく走って集中力が切れてくると、また元に戻って近くを見がちになったりしたので、どうやら長年の癖らしいです。

あっという間の90分

「最後にまた行きたいところはありますか」と聞かれたものの、外周コースが楽しかったので、移動せず最後まで走り続けて制限時間終了。90分もあったのに、あっという間に感じました。でも確かに相当エネルギーを使って疲れた実感はあったので、ちょうどいい長さなのでしょう。

下手くそなうえにビビりなので、嫌々やっているような印象をインストラクターさんには少々与えてしまったようですが、全体を通して“上手な運転”のエッセンス、そして久しぶりの”練習するほど上達する感覚”を感じることができて、かなり楽しむことができました。

最後に記念撮影(上の方の写真)をして解散。ついでに忘れてたと思ってリアゲート?を開けてエンジンを見せてもらいましたが、カバーで覆われてて特にメカメカしいものは見えず特に面白くはなかったです。余韻を残しながら建物を退出。ちょっと上手くなった気分で、早速プロボックスのシートポジションをだいぶ前に直し、カーブのなるべく先を見るよう意識しながらゴキゲンで帰ったのでした・・・

感想

安くはない出費で正直不安もありましたが、値段以上の素晴らしい経験ができたと思います。本当に買うか分からない憧れの高性能車の試乗ができること、また街乗りではなく限界性能の試乗ができるのはたいへん画期的なことだと思います。またスタッフ・インストラクターの対応もひとつひとつが上質で丁寧でしたが、「買わない奴は帰れ」的な敷居の高さは全く感じませんでした。「一台でも多く売ろう」ではなく「ファンを増やそう」という発想の施設なのでしょう。実際私も、ますますポルシェが好きになりました。東京付近在住で「いつかはポルシェ」という人には、ぜひおすすめしたいです。

あいにく遠方ということもあり中々厳しいところですが、またそのうち行ってみたいと思いました。単純に上達を目指すのも良いし、他の車種やオフロードを試してみるのも楽しそう。むしろ、他メーカーが対抗してきたりしたら最高なのでは、などと夢が広がってきたところで今日はこの辺にしましょう。 おわり